東京高等裁判所 昭和46年(ネ)61号 判決
二、控訴人は、右除名決議は、その手続においても、またその内容においても瑕疵があり無効であると主張するので、まず決議の手続の点から検討する。
1、<証拠略>によると、被控訴組合においては、控訴人に後記三認定のような事情があることから、昭和三六年三月一七日開催の理事会及び同年三月一八日開催の役員・農家組合長合同会議(なお、農家組合というのは被控訴組合の下部組織として、地域ごとに農家が集って作っている任意団体である。)において控訴人を除名するのも止むを得ないとの意向をかため、同年四月一七日開かれた理事会において控訴人を除名することに決定したこと、そこで被控訴組合は組合長である理事関根常雄の名を以て、同年四月一九日付書面により、控訴人に対し、控訴人には被控訴組合の定款第一五条所定の除名事由に該当する事実があると認められるので、上記理事会の決定により、同月二九日に開催する第一三回総会に控訴人の除名の件を議案として提案する予定であり、控訴人は右総会において、これに対し弁明する機会が与えられる旨を通知し、右書面はその頃控訴人に到達したこと、及び被控訴組合は、同年四月二一日付書面により、控訴人に対し上記総会は同年五月三日に延期される旨を通知し、右書面はその頃控訴人に到達したことが認められ、これに反する証拠はない。上記認定の通知は、被控訴組合において、農業協同組合法(以下単に法という。)第二二条第二項及びこれと同趣旨を定める被控訴組合定款第一五条の規定<証拠略>に従い、控訴人に対し、総会開催の一〇日前までに、総会において控訴人に対する除名の議案が上程されること及びこれに対し総会において弁明する機会がある旨を通知したものと認められるところ、控訴人が、被控訴組合に宛て脱退届を出したままで、上記総会に出席しなかったことは当事者間に争いがない。
控訴人は、控訴人の除名問題については、当時控訴人と被控訴組合との間を調停する者があり、その者が示した調停案、即ち、控訴人は総会に出席しないで、脱退届を出して一旦被控訴組合を脱退するが、その後同組合は控訴人の再加入を認めるとの案を、被控訴組合も受けいれるとのことであったので、控訴人はこれを信じ、上記のように脱退届を出して総会に出席しなかったところ、被控訴組合は予期に反し除名決議をしたものであるから、控訴人は総会において弁明する機会が与えられなかったことに帰し、まずこの点で本件除名決議には瑕疵があると主張する。しかし、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果のうち、その主張のような調停案が成立したので総会に出席しなかったとする部分は、後記各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に上記控訴人の主張を認めるに足る証拠はなく、かえって、<証拠略>によると、当時訴外斎藤圭一が調停者となり、控訴人は組合を脱退しその子を組合に加入させるという案が示されたが、控訴人及び被控訴組合の受諾するところとはならなかったことが明らかである。従って、控訴人のこの主張は採用できない。
2、つぎに<証拠略>によると、被控訴組合の第一三回総会は昭和三六年五月三日羽生市立新郷第一小学校講堂において開催され、正組合員五二九名、準組合員一六三名のうち、正組合員四四三名(うち委任状の提出によるもの五名)、準組合員一二〇名が出席し、控訴人の除名の件は第五号議案として上程され、審議のうえ、採決にはいり、議長が、まず除名する旨の原案に対し反対の者の起立を求めたところ二名が起立し、ついで原案に賛成する者の起立を求めたところほゞ全員が起立し、さらに再度原案に反対の者の起立を求めたところ、やはり、二名が起立したに止まったことが認められ、<証拠略>のうち右認定に反する部分は前記各証拠と対比してたやすく措信し難く、他にこれに反する証拠はない。
右認定の事実によれば、前記総会には、準組合員を除く総組合員の半数以上が出席したこと及び本件除名決議は上記出席組合員の議決権の三分の二以上の多数によって議決されたことが認められるから、上記決議は法第四六条所定の要件を満すものである。ところで、控訴人は除名議案は一旦否決されたものであるから、その後になされた本件決議は無効である旨主張するけれども、除名の決議に至る経緯は既に認定したとおりであって、この主張を認めるに足りる措信すべき証拠はないから、この主張もまた採用できない。
3、さらに、控訴人が被控訴組合に宛て脱退届を提出したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、<証拠略>によると、控訴人は前記総会当日の朝、被控訴組合に昭和三六年五月二日付で脱退届を提出したこと、そこで組合長関根常雄は総会の席上、控訴人の除名議案の審議に先立って控訴人から右のような脱退届が出ていることを告げたこと、総会においてはこれをどう取り扱うかについて相当論議がかわされたが、結局控訴人の退脱を認めず、前記2のとおり除名の決議がされたことが認められ、これに反する証拠はない。ところで法第二一条第一項(前示被控訴組合定款第一四条第一項も同趣旨を定めている)によると、組合員は六〇日前までに予告して事業年度の終りにおいて脱退することができるものであるから、上記脱退届を提出したからといって、控訴人は当然に被控訴組合を脱退し、組合員たる身分を失なうものではないうえに、除名の議案が提案された後に、当該組合員からなされた脱退の意思表示にどのような効力を認めるかは、法及び定款に特段の規定のない限り、除名議案を審議する総会においてこれを決することができるものと解するのが相当であるから、上記特段の定めの認められない本件においては、控訴人から前記のような脱退届が出されていたということは、何ら本件除名決議の効力を左右するものとはいえない。
4、以上のとおりであるから、他に特段の主張、立証のない本件においては、本件除名決議は、その手続においては何ら欠けるところはないものというべきである。
三、そこで進んで本件除名決議の内容、すなわち除名の理由の有無について審究するのに、<証拠略>によると、被控訴組合が控訴人を除名したのは、控訴人に法第二二条第二項第三号、前記被控訴組合定款第一五条第一項第三号、第四号に定める事由があることを理由とするものであると認められるが、<証拠略>によると、上記定款第一五条第一項第三号は、組合員が「この組合の事業を妨げる行為をしたとき。」と同第四号は組合員が「法令、法令に基いてする行政庁の処分又はこの組合の定款、規約若しくは共済規定に違反し、その他故意又は重大な過失によりこの組合の信用を失わせるような行為をしたとき。」と規定しているから、果して控訴人に上記各号に該当する行為があったかどうかを判断する。<中略>
従って、控訴人が新聞記事になることを予期して、前記のようなことを記者に話したという行動は、控訴人の直接の言動ではないこと及び被控訴組合にも前記のように落度がなかったとはいえないことからして、それ自体ではまだ前記(一)のように定款第一五条第一項第三、第四号に該当するものではないとしても、これを右(一)で認定判断したところと総合して考えれば、少くとも上記の認定判断を裏付け、これをいよいよ強固ならしめるものといえるのであるから、被控訴組合の理事者が新聞記事の発表という事態に接して、終局的に控訴人を除名するという意思を決定するに至ったのは、理由があるものというべきである。
してみると、本件除名決議は、控訴人が被控訴組合の不正の事実を剔抉しようとしたので、これを抑圧するといったような不正、不当な動機に出たものと認めることは困難といわねばならない<証拠略>には、控訴人が不正を摘発したので被控訴組合が本件除名決議をしたかのように受け取られる部分があるが、右は新聞記事であって、十分な根拠に基づくものでないことはすでに認定したところから明らかであるから、右部分の存在は到底上記の判断を左右するものではない。)。
3、叙上のとおりであるから、本件除名決議は充分理由のあるものであり、その内容においても欠けるところはないものである。
四、次に法第二二条第三項は、除名は、除名した組合員にその旨の通知をしなければ、その組合員に対抗することができない旨規定し、<証拠略>によると被控訴組合の定款第一五条第二項は、この規定をうけて、除名を議決したときは、その理由を明らかにした書面でこれをその組合員に通知すべきものと定めている。そうして、被控訴組合が昭和三六年五月八日付書面を以て控訴人に対し除名議案が原案どおり可決された旨通知したことは当事者間に争いがなく、前記二、1、認定の事実によれば、右に原案どおりというのは、被控訴組合から控訴人に対する同年四月一九日付書面に記載した、控訴人に定款第一五条所定の除名事由があることを指すことが明らかであるから、上記の通知は法及び定款の要件を満すものというべきである。
従って、本件除名決議は控訴人に対し効力を生じ、控訴人は被控訴組合の組合員たる資格を失ったものである。
(白石 川上 間中)